鹿の王

病には情はない。善悪も関係ない。だからこそ恐ろしいのだ。

ホッサル
2015.05.03(日)上橋菜穂子
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この小説は、ファンタジーでありながらも、今の世界を見事に描き切ったような、そんな小説でした。賞にはあまり興味がないボクも、この小説が本屋大賞になったときは本当にうれしく感じました。是非、NHKかTBSの日曜9時枠あたりでドラマ化してもらいたいかと思います(壮大なものが得意そうだから)。

東乎瑠(ツォル)帝国に恭順を示すことで、一定の地位を確保し、民の「身の安全保障」を手に入れた国アカファ。ただ、そのアカファと共存しながらもゆるい自治権を得ていた辺境の氏族はそう簡単にいかなかった。帝国としての東乎瑠は、その辺境支配に対して下層民をわざと故地を離れさせ、他の征服地へ入植させることで、支配を保つ戦略を常にとっており、それに対しアカファの王が意を唱えることはできなかった。
力ではかなうはずがないが、簡単に従っては奴隷同然の扱いを受けてしまう。どうにか自分の氏族に有利な交渉が出来ないかと考えたのが、氏族の中に徹底抗戦を叫ぶ戦士団の存在を作ることだった。その戦士団、「独角」のリーダーであるヴァンは、力の限り戦い、氏族に有利な条件を引き出したところでみずからは岩塩鉱で奴隷として労働させられる日々を送っていた。
そんなある日、岩塩鉱に一匹の黒い獣が現れ、信じられないような身のこなしにより次々と奴隷たちを襲っていった。しばらくすると襲われた奴隷たちは次々と死んでいった。その時はなんとか獣を退治したヴァンだったが、自らも噛まれたことを考えると自分も死んでいくのだろうと思っていたが、なぜか自分は生き延びてしまった。それだけでなく、なにか今までにないような信じられない力を感じ、自分をつなぐ鎖を引きちぎって、同じく生き延びた赤子とともに岩塩鉱を出ていったのだった。
岩塩鉱の謎の死を調べることになった、オタワルの医師ホッサル。過去に東乎瑠皇帝の妃を救い、東乎瑠帝国の中でも名声をとどろかせる天才医師だったが、彼が死体を目にしたとたん驚愕する。それは、過去に古オタワル王国を滅びへと押しやった病、「黒狼熱(ミッツアル)」の状況と酷似していたからだった。
黒狼熱だとしたらいまのところ特効薬はない。ホッサルはこの病の蔓延を防ぐことができるのか?そしてこの病にかからず生き延びることができたヴァンに起きた変化が意味するものとは?支配する側と支配される側、それぞれの国の思惑が交錯し、まるで現代社会を描いたかのようなこの壮大な物語の行く先とは・・・。

いやはや、本当にこの人の書く物語はなぜこうもすぐ世界に引き込まれてしまうのだろうか?やっぱり、言葉とか文化みたいなものを細かく考えて世界を作っているからだろうか?
この帝国とそれに恭順する国や支配される国、また圧倒的な技術力で帝国内でもステータスを築くことが出来る人々など、今の世界に当てはめると面白いですよね。特にわが日本がいったいどういった立場なのかと、恭順する国なのか対立なのかそれとも支配下にあるのか?そして、その帝国でも恐れる国はあるというところも・・・。
そして、辺境に送られ、故郷とまったく違う環境でありながらも、そこになんとか適応しようと懸命に生きる人々の姿もぐっとくるものがありますが、少し前に移民問題で炎上してた曽根綾子先生にも是非読んでもらいたいものです。

この物語では飛鹿(ピユイカ)という動物がでてくるのですが、群れに危険が訪れたとき、優秀な飛鹿は自らは危険に陥ったとしても群れを守るための行動をとり、その飛鹿を「鹿の王」と呼ぶそうですが、この物語における「鹿の王」とはいったい誰なんでしょうか?それは是非読んでお確かめください。

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