夏を喪くす

少年とはいい大人の男の別称である。

野中咲子
2013.05.29(水)原田マハ
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「楽園のカンヴァス」で一躍注目を浴びた原田マハさんの短編小説です。何故かkoboで「楽園の〜」が出てないので、なんとなくタイトルに惹かれ読みましたが、どれも心にジ〜ンとくるものがあり、通勤時に読むのがちょっともったいなかったかもですね。

建築設計・開発プロデュース会社を経営する野中咲子は、地位、名誉だけでなく、その美貌から誰もが羨む人生を歩んでいるように思われてたが、人には言えない秘密が二つあった。一つは不倫、そしてもうひとつは。。。
仕事が順調にいったご褒美と称し、社員旅行で沖縄に来た咲子は周りの盛り上がりとは対照的にどこか冷めたままだったが、共同経営者である青柳の少年のような行動に少しずつ心がほぐれていくのを感じてた。
そんな青柳が突然,「5分寝そべって車が来なかったら願いかなう」といい橋に寝転びだした。いったい何をねがっているのか、その青柳の真意を知った時、咲子の気持ちに変化がおとずれる。

青柳は咲子にとっては戦友のような感じで、夫や不倫相手よりも長く過ごしてるわけですが、決して恋仲になるような相手では無いんですよね。でも、この二人の距離感がすごく心地いいんですね、最後は少し切ないですけど。

これは表題の「夏を喪くす」という作品なんですが、物語を読んだ後、改めていいタイトルだなと思えました。これですよ、これ。タイトル重要。

あとの3作は、出て行った父親が書いた詩を見つけた娘、不倫旅行中に夫が意識不明となり、その夫の不倫相手を探す女、9・11以降、行方不明になった親友を尋ねる女など、どれもちょっとした仕掛けがあって、ドキっとしながらも切なく、温かい仕上がりになってますので、存分に楽しめます。

ちなみに、作者の原田マハさんは、ニューヨーク近代美術館のキュレーターだったとの事で、美術や建築に関する話題が出てくるのですが、その出し方が絶妙で、物語に花を添えてます。しかし、楽園のカンヴァス、なんでkoboで出ないんだ。。。

大絵画展 (望月諒子著)

コーヒーカップが空になっていた。店主は自ら、緑茶を入れた。どことなくいそいそと見えたが、定子は気にならなかった。語り部は相手を選ばないのだ。銀座の通りがほんの少し夏の疲れを見せていた。

大浦定子
英雄の書 (宮部みゆき著)

全ての物語は、等しく、紡ぐ者の罪業に他ならぬ。

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